【90-00年代アニメソング】アニメ主題歌にヒップホップが受け入れられてきた歴史について考える アニソンDJが振り返るアニメとヒップホップ・ミュージックの邂逅

現在多くの人に、一つの音楽ジャンルとして認知されているヒップホップ・ミュージック。リズミカルなビートとラップをメインの構成要素とした本音楽ジャンルは、1973年8月10日に誕生されたと言われており、今年生誕50周年を迎えた。
本音楽ジャンルが日本に伝わったのは1980年代前半のことだ。いとうせいこうらによってその礎が作られると、日本においてもその地位は徐々に確立されていき、一大音楽ジャンルにまで成長。近年はヒップホップアーティストがアニメ主題歌を歌うということも珍しくない。
果たして、アニメの世界にヒップホップ・ミュージックはいかに受け入れらていったのだろうか? 今回はその歴史を、時代ごとの代表曲と共に振り返っていこうと思う。

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『新ビックリマン』「やっぱビックリマン!!」ニッチモ、SHINES(1989)

あくまでこれは筆者の観測の範囲ではあるが、“ヒップホップ的要素”が色濃く採用された初のアニメ主題歌は1989年に放送された『新ビックリマン』エンディング「やっぱビックリマン!!」だと思う。

リズミカルなビートに合わせ、サンプリングされた音ネタが次々に鳴る本楽曲、その構成にはヒップホップ・ミュージックからの影響は無視できない。歌詞内容は「ビックリマン」の6文字を使った「あいうえお作文」になっており、8小説ごとに1キャラクターを紹介していくという構成。各キャラクター紹介には全く違った声色・節回しが使用されており、ヒップホップにおけるマイクリレーを感じずにはいられない。

あわせて聴きたい:
『ポンキッキーズ』「大人になっても」スチャダラパー(1990)

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『ママはぽよぽよザウルスがお好き』「Beeper Love(Saurus Version)」NOW(1995)

「やっぱビックリマン!!」以降、キャラクターソングではしばし“ヒップホップ的要素”を感じさせる曲が制作されることはあったが、主題歌に採用されるまでには至らなかった。

潮目が変わったのは1995年のこと、前年にEAST END×YURIがリリースしたファーストシングル「DA.YO.NE」がミリオンセラーを記録。若者文化として受け入れられたヒップホップ・ミュージックを主題歌として採用したのがアニメ『ママはぽよぽよザウルスがお好き』だ。

歌詞は若者の代表である子供たちの心情を歌ったもとなたっており、「ママなんて大嫌い」などのフレーズは耳をひく。歌唱を担当したのはガールズヒップホップユニット・NOW。アニメの主題歌となったSaurus Versionとは別に、オリジナル版も同シングルに収録。こちらは当時の若者言葉をふんだんに使ったラブソングとなっている。

あわせて聴きたい:
『ドッカン!ロボ天どん』「Dokkan Beat」影山ヒロノブ&朝川ひろこ(1995)

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『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』「WAR WAR! STOP IT」(1996)

『ママはぽよぽよザウルスがお好き』の翌年放送されたアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』は、アメリカ・カナダで制作されたアニメーションに対し、日本語の吹き替えをつけて放送された作品だ。その主題歌にヒップホップ調のラップナンバーが採用されたのは、アメリカで生まれた音楽であるヒップホップ・ミュージックへのリスペクトがあってのことだろう。

本楽曲を歌ったのは下町兄弟とは、BANANA ICE(工藤玄実)率いるラップユニット。工藤玄実はその後も多くのヒップホップを感じさせるアニメソングを手掛け、この世界にラップという表現方法を大いに根付かせた。

あわせて聴きたい①:工藤玄実が手がけたアニメソング
『ドンキーコング』「明日になったら…」ドンキー(山寺宏一)&ディディー(林原めぐみ)(1999)作詞・作曲・編曲
『はれときどきぶた』「BOO~おなかが空くほど笑ってみたい~」ゴスペラーズ(1998)編曲

あわせて聴きたい②:輸入アニメ主題歌に使われたヒップホップ調楽曲
『ミュータント・タートルズ 超人伝説編』「地球はお元気」MOKKUN(1996)

『カウボーイビバップ』「空を取り戻した日」SHAKKAZOMBIE(1998)

1998年に放送開始となったアニメ『カウボーイビバップ』。全編を通して音楽にジャズを使用した本作では、これまでとは違った文脈でヒップホップが使用されている。

ヒップホップ要素が大いに現れたのは、本作のテレビ東京放映版の第13話「よせあつめブルース」。これまでの物語で使用された映像を再構成して制作された本エピソードでは、全編に渡ってヒップホップユニット・SHAKKAZOMBIEのトラックメーカー・TSUTCHIEによるブレイクビーツが使用されている。そして、本編中に使用されたSHAKKAZOMBIEによる挿入歌「空を取り戻した日」は、ジャズをサンプリングしたナンバーとなっていた。

ヒップホップの世界において、ジャズは重要なサンプリングソースだ。数々のジャズの名演の一節を切り取り、それを再構成することで多くのヒップホップ・ミュージックは生み出されてきた。ジャズを劇伴として使用してきた『カウボーイビバップ』、その映像を再構成するにあたり、挿入歌としてヒップホップナンバーが使用されたのはいわば必然と言えるだろう。

『サムライチャンプルー』「battlecry」nujabes feat shing02(2004)

『カウボーイビバップ』を手掛けた監督・渡辺信一郎が、『カウボーイビバップ』の成功を受け、「内容だけでなく、音楽に関しても好きにやって構わない」との言葉から制作したのがこの『サムライチャンプルー』だ。

音楽に上述の「よせあつめブルース」で音楽を手掛けたTSUTCHIE、加えてfat jon、Nujabes、FORCE OF NATUREとヒップホップ界から錚々たるメンツが揃えて制作された本作は、全編通してヒップホップ・サウンドが配された作品に仕上がっている。本作の主題歌「battlecry」は、2010年に惜しまれつつも他界したNujabesがトラックを制作、ラップを担当したのはヒップホップアーティスト・Shing02。全歌詞英語で書かれたリリックは、非常に耳馴染みがいいものに仕上がっている。

本作以降、ヒップホップとアニメの接点はより強固なものとなり、アニメ主題歌にヒップホップアーティストが起用されることが増えていくこととなる。

あわせて聴きたい:
『TOKYO TRIBE2』「TOP OF TOKYO」 ILLMATIC BUDDHA MC’s(2006)
『怪 ~ayakashi~』「HEAT ISLAND feat. FIRE BALL」RHYMESTER(2006)

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ライターから一言

2000年代後半以降、さらにヒップホップ・ミュージックがアニメ主題歌として採用される機会は増えていく。ここまでの歴史を把握することで、楽曲の楽しみはさらに味わいを増すことだろう。是非とも今回紹介した楽曲たちをチェックしてほしいと思う。

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